第2話|「順調ですね」と言われて、返事に迷ってしまう理由
「順調ですね」と言われると、
つい言葉を選んでしまう自分がいます。
「ありがとうございます」と返しながら、
頭の中では、別のことを考えています。
いちごの状態が
常に100点かって言うと
実はそうでもないからです。
イチゴは本来、春に実をつける作物です。
冬の間は休眠し、じっと力をためています。
それを冬に実らせるために
人の手で春に近い環境をつくっています。
夕方以降に電気をつけて日長を延ばし
ハウス内を加温して
疑似的に春の状態をつくる。
ただ、春に寄せすぎると
今度は葉ばかりが茂り
実がつかなくなります。
起こしすぎず
かといって寝かせすぎず。
完全に目覚める一歩手前の
少し寝ぼけた状態を保つことで
イチゴは実をつけ続けます。
この微妙な状態を保つためには
水や肥料の管理も欠かせません。
また
モグベリーでは
いちごの水やりに
肥料濃度を一定に整えた水を使い
培地の底から滴り落ちる
廃液の濃度を定期的に計測しています。
廃液の濃度が高いときは
根が肥料をうまく吸えていないサインです。
これは
いわゆる「成り疲れ」と呼ばれる状態で
日照が少なくなる時期や
花を多くつけすぎたときに
起こりやすい症状です。
株に負荷をかけすぎると
実にばかり栄養が回り
根が弱ってしまうことがあります。
すると
次に出てくる葉が小さくなったり
株全体の力が落ちてしまう。
目の前の実りを優先しすぎると
その先の生育に影響が出ます。
そんなときは
細根を増やす資材を使ったり
葉面に液肥を散布したり
花数を制限したりして
株の状態を立て直します。
感覚だけで決めるのではなく
数値や株の様子を見ながら
どんな対策を取るかを検討します。
後手に回らないよう
早めに判断することを
常に心がけています。
さらに
この先の気象状況によって
株の状態はまた変わってきます。
晴れが続くのか
寒の戻りがあるのか
曇りが多いのか。
同じ判断をしても
結果が変わってしまうことばかり。
気象条件は、毎年違います。
糖は光合成の産物。
いちご農家の仕事は
株が健全な状態で
光合成できる環境を整えること。
そして
生まれた糖を
効率よくいちごの実に送ることです。
ただ
その考え方で管理を続けていけば
常に100点のいちごができるかというと
実はそうでもありません。
そして
そうした管理の積み重ねの先に
来てくれる人がいます。
だからこそ
来てくれた人をがっかりさせない判断を
選び続けたいと思っています。
「順調ですね」と言われるたびに
少しだけ返事に迷ってしまうのは
そんな背景があるからです。
